静寂すぎる静物画家、ジョルジョ•モランディ

今年の1月、東京ステーションギャラリーにある展示を見に行った様子をブログに上げました。そして次回の展示はイタリアの画家 ジョルジョ•モランディであることを告知してからすっかり時が過ぎてしまいました。この展示の宣伝美術はALL RIGHTの髙田唯さん、そして封筒の制作を弊社でも携わらせていただきました。

 ●前回のブログ 職人とアーティストの共同作業 - 4F Blog

 ジョルジョ•モランディがイタリアの有名な画家であることは全く知らなかったのですがフライヤーの様子から色合いや柔らかい線に心魅かれていました。そして髙田唯さんがある時SNSでモランディに対する思いを綴っていて、何故だかその投稿がずーっと心に残っていました。モランディと髙田さんのデザインとがわたしの中で何か繋がったのでしょうか。展示終了間近なので先日、急いで見に行ってきました。

 

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 *髙田唯さんディレクションの招待状、活版も使われています。質感が優しい紙が使われていました

 

ジョルジョ•モランディはイタリア出身。私のイタリアのイメージは北と南では土地はもちろん人柄もかなり違う印象です。南はよく言われるように陽気で大らか、北はどちらかというと落ち着きのある雰囲気、モランディは案の定、ボローニャ出身ということもあって北の方ですね。作風から想像できます。

 

展示会場に入ると彼のポートレイト写真がありました。想像していたより細めで素敵な紳士に見えましたが、神経質そう.....にも見えました。その直感はまんざら外れてはなさそうです。

 

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至る所にどれも似たような静物画がずらり。まるで間違い探しをさせられているようです。花瓶、壷、水差し、ボウル、箱、等の日用品がモチーフ、位置を変えたり、ちょっと色が違う、だけのように見える。この人は一体どうしたのだ?

会場の壁には彼のコンセプトに繋がる言葉が綴られていました。私にとってその言葉が作品を読み解く手助けとなりました。その言葉と静物画から私は徐々に彼の表現することに近づけた気がしました。

とてもシンプルで短くまとめられた言葉ですが考えれば考えるほど思索にふけるものばかりです。

「目に見えるものは、描けるのです」

「重要なのは、ものの深奥に、本質にふれることです」

「実際に見ているもの以上に、抽象的で非現実的なものはない」

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この世の本質を見抜いているかのような言葉です。私たちの目の前に起こる現象というのはあくまでも現象であってその一歩奥の見えないところに本当の答えやヒントが隠されているというのは私自身が年齢を重ねる程に感じることです。モランディはそのこの世の本質とは何か?ということを探るために静物画をストイックに描き続けていたのかもしれません。

 

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 *上の絵と同じではないですよ

 

展示の解説にモランディの絵画は「時がとまった静寂さ、見る人を瞑想的な世界へ連れていく」とありました。確かに彼の絵は見れば見るほど自分と対話をさせられているような気持ちになり、埃がつもる音すら聞こえてきそうな静寂さがあります。モランディ自身も日々の自分の微妙な精神的変化をこの静物画で表現していたのでは、と私は感じます。

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 *ただそこに存在している

展示場には彼のアトリエの様子が見れる写真や映像がありました。数多くのモチーフがアトリエに陳列されていて埃だらけのものもありました。しかしその様子から単なる所有欲で物を持っているのではなくモランディと物とが一体化しているような佇まいでした。映像の中で印象に残った彼の言葉は、「私は一度使った物は大切にするけど、思い切って捨てないと物の隷縦になってしまうからね、日本では使い終わった物は埋葬するんだってね、」と。

 

私は学生時代に茶道をかじったのですが、ある生徒が不注意からお茶碗を割ってしまいした。やってはいけないことをしてしまったという思いで泣きじゃくる彼女に茶道の先生はまず割ってしまった事実を受け入れさせ、不注意に至ってしまった自分と対話し、感謝しながらお茶碗を土にかえすよう私たちを導いてくれました。この経験は私の中に今でも強く残っています。モランディだったらこの話をどう思うでしょうか?

 

いまでこそ、本当に大事な物だけで、ムダな物を持たない事や手放すことが流行っていますが物事の本質的なことを見抜く人達というのは時代に関係なくいたのです。彼らからいわせれば「流行」ということが分からないかもしれませんね。

 

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この展示に行った他の社員は一言「変態ですよね。」確かに100点近くある絵画、どれもこれも似たような物ばかり、奇妙な空間、一言「変態」でいいのかも。でもみんな、何かの変態だと私は思います。

 

終了間近のお知らせで申し訳ないのですが、今週末にでもぜひ。

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