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活版印刷 × 箔押し × 製本 クロストークのおすそわけ

こんにちは。お久しぶりです。4F編集室の沼上です。

さる8月3日、Factory 4Fでは「ファクトリーツアー+クロストーク」というイベントが開かれました。
Factory 4Fの運営母体である篠原紙工も紹介されている『たのみやすい! 特殊印刷・加工・製本所イエローページ』(エムディエヌコーポレーション刊)という書籍の刊行記念としておこなわれたこのイベント。

後半のクロストークでは、同書にて紹介されている三社から、高岡昌生さん(嘉瑞工房)、梅津浩さん(美箔ワタナベ)、篠原慶丞(篠原紙工Factory 4F)の三名がゲストとして登場(進行はエムディエヌコーポレーションの鴨英幸さんです)。

活版印刷・箔押し・製本というそれぞれのお仕事についての喜びや悩みなども垣間見えたクロストークの一部を4Fブログでおすそわけします!

※イベント全体のダイジェストは「Factory 4F PAPER 45」でご覧いただけます
https://www.dropbox.com/s/4a7cjb5l0ry7ab1/4fpaper_45_20160809.pdf?dl=0

 

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——きょうのゲストでお集まりいただいた皆さんの会社は、お仕事やホームページを拝見しても一般的な印刷・製本業界のイメージを覆すような存在です。
どのようなことを意識してお仕事をされているのでしょうか? まずはFactory 4Fをつくられた篠原さんからお話いただけますか?

篠原 篠原紙工とFactory 4Fの代表をしている篠原です。
うちは父親が創業者で、ぼくは二代目です。

実は子どもの頃から製本会社がずっと嫌いだったんです。
ぼく自身最初は現場で機械をまわしていたんですけど、機械は好きだし、製本の作業自体も好きだった。

じゃあなんで嫌いだったかと言うと、世の中に出たら製本業なんて誰も知らないから。
クラスメートにも「製本会社」なんて通じなかった。
それが子どもの頃から嫌だったんです。

そこで、製本業についてその魅力も含めて皆さんに知ってもらいたいという思いもあってこういう場所をつくりました。
Factory 4Fでは、先ほど体験していただいたようなファクトリーツアーをやったり、セミナーやワークショップを開くことで、製本業をオープンにしようとしています。

 

——高岡さんはいかがですか?

高岡 嘉瑞工房という活版印刷の工房をやっている高岡です。
手間も掛かるし、設備の維持も大変です。
なので活版印刷はやめたいと思っています(笑)

いま業界という話が出ましたが、そもそも活版(印刷)は業界自体が存在できていない。
うちは創立60周年だけど、活版だけで60周年というのは珍しいんです。
活版から始めたけれど、いまはオフセット(印刷)などをしているところがほとんど。
20〜30年前に活版は業界自体がなくなってしまったんです。

うちも何度も危機がありましたし、いまも危機は続いているようなものです。
そこで生き残るために拡大路線はやめようということにしています。
工場見学も送迎もしない、基本的には立ち合いもできない。
なんでもやりますとはやりたくないし、うちでやらなくてもいい仕事は断ります。
ただ活版でやりたいというだけなら他のところでやってもらえばいい。
「うちでなくてはできないこと」のために技術を磨くというところにグッと潜り込んでやってきました。
だからうちはぜんぜん開けてない(笑)

 

篠原 でもこういうところに出てきてるじゃないですか(笑)

 

高岡 そうしないと潰れちゃうから。
出ろと言われたから来たけど、タイポグラフィについてではなく、活版印刷のことだけならほんとうは出たくない(笑)

世の中では活版ブームと言われますけど、ブームと言われるのも嫌で。
ブームはいつか必ず終わってしまう。
(一過性の)ブームにしないためにどうしたらいいかを考えてやっています。

ただ活版印刷を使ってみたいという声も聞きますが、活版は目的ではないんです。
目的ではなく手段。
いい名刺・いい印刷物をつくるための手段として活版印刷をやっています。

 

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 高岡昌生さん(写真右)

 

——梅津さんはどうでしょう?

梅津 箔押しを専門にしている美箔ワタナベの梅津です。

活版印刷もそうですけど、いま求められているのは純粋なものだと思うんです。
すごく簡単に安くできちゃうものがもてはやされる一方で、(高い技術を注いで)すごく純粋につくられたもの、誰が見てもかっこいいと思うようなものもある。
その両極端だと思うんです。
そしてぼくたちは加工の魅力を生かす方向で売っていかないと、あるいは加工についてデザイナーさんや加工をする仲間たちと一緒に考えていかないと未来はない。

よく言うんですが、加工に関して1+1は2じゃないんです。
加工を組み合わせることで、単純な足し算以上のものが(印刷物に)宿ると思っています。

 

篠原 加工自体が目的ではないというのはうちも同じですね。
単純な「◯◯(加工)いくら」というのとは違うスタンスで仕事をしています。

デザイナーさんの「こういうものがつくりたい」という目的をどうやったら実現できるか、そういうことを考えながら「それならこういう加工はどうだろう?」という提案もどんどんしてきます。

 

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梅津浩さん(写真左)

 

——デザイナーの方や私たち出版社で編集を担当する者にとって、加工はブラックボックスのようなところがあると思うんですね。普通は印刷会社にお任せという感じなので。
きょうは篠原紙工さんの工場を見学させていただいて、参加者の皆さんからも「かっこいい!」という声があがっていましたね。

梅津 こういう場を通じて加工の魅力や効果がわかってもらえたらいいといつも思うんです。
業界としては、閉鎖的なところがすこしあるので……

 

篠原 そういう思いもあって毎週水曜日にファクトリーツアーを開いているんです。

ところできょうは書籍の刊行イベントということですけど、たとえばこの本を受け取った時にどこから見ますか?
ぼくは本をもらうと真っ先に「開き」を見るんです。
糊の種類とか綴じ方とか、開き具合を見てどうやっているか考える。
活版だとやっぱり文字組とか見るんですか?

 

高岡 まあそうですね。

 

篠原 箔ならまずどこを見ます?

 

梅津 「ツヤ」とか「ヌケ」を見ますね。
箔の種類や押し方によって仕上がりが変わるので。

 

篠原 技術的に勝負とかしない?
「うちならもっと上手くやるな」とか。

 

梅津 それはある(笑)
あとはどういう機械でやったか考えます。

 

 

——高岡さんは先ほど活版をやめたいとおっしゃっていましたが、それってどういうことでしょうか?

高岡 活版印刷をやりたいから嘉瑞工房をやめたいということです。

活版印刷は仕事ですから、食べるためにはいろんな仕事を受けなきゃいけない。
そうするとやりたくないこともある。
それは当然ですね。

やりたいことだけやっていられたらいいけど、ほんとうにやりたいことに時間をなかなか費やせなくて。
自分がつくりたいと思ってるものは土日にちょこちょこっとやってはいますけど、逆に言うとそのくらいしかやれない。
ほんとうにやりたいことをやるためには嘉瑞工房をやめたほうがいいんです。

自分のものだったら気に食わなければ何度もやりなおすけれど、注文を受けた仕事だとなかなかそうも言っていられないし。
もちろんそのときどきで最善はつくすけれど、自分の意向と違うこともやらなきゃいけないので……

 

篠原 やっぱり機械をまわしている時がたのしいですか?

 

高岡 そうですね。
組版した結果を印刷して確認するのが楽しみです。

 

篠原 梅津さんは何してる時がいちばん楽しい?

 

梅津 試作ができあがって最初にお客さんのところに持っていく時ですね。
できあがったその時点では、世界中でまだオペレーターとぼくしか見ていない。
それってすごく贅沢だと思うんです。
お客さんに見せた時にどんな反応があるか想像するのも楽しみ。

 

篠原 梅津さんとは普段から仕事をすることがあるんですけど、ドヤ顔で試作をもってくる時があるんです。
いまその理由がわかりました(笑)

梅津さんのところは造幣局、日本のお金をつくっているところと同じスイス製の機械を使っているんですよね。
いい箔押しの機械って他の機械と何が違うんですか?

 

梅津 見当だったりの精度が違います。
しっかりセットをすれば、多面付けしても見当がズレないんです。

 

篠原 なるほどね。

 

梅津 あとは多面付けするほど、ツヤやヌケも難しくなりますね。
絵柄次第で箔押しの難易度は変わるんです。
面積が大きくなるほど難しくなりますし。
うちは事前にデザインを見せてもらって絵柄次第で見積もりも変えています。

 

篠原 うちも加工の見積もりが会社によってぜんぜん違う理由をよく聞かれるんです。
同じ仕様で見積もりをとったのに会社ごとに価格が違うのはなぜなんだと。

たとえば、決まったルーティンのような仕事を主にしているところと都度違った課題に取り組んでいるところでは、同じ仕様で見積もりをとってもけっこう違ったりします。
それは各社が自分たちの普段やっている仕事内容を踏まえて見積もりを出しているからなんです。
仕事の内容に応じてどこまで細かいことをケアする必要があるかを考えたり、求められる精度を出すための配慮も含めた価格なのか、あるいは仕様書に書かれたことだけを機械でやる価格なのか。

ひと口に印刷・加工と言っても、そういう違いがあることを知ってもらえると嬉しいです。

 

——まだまだお聞きしたいことは尽きないのですが、そろそろ時間がきてしまったのでこのあたりでトークは終わりにさせていただけたらと思います。
お三方とも、本日はありがとうございました。

 

 

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『たのみやすい! 特殊印刷・加工・製本所イエローページ』

編集:フレア
発行:エムディエヌコーポレーション
定価:2,300円+税