名刺箱ができるまで
篠原紙工では時々ですが、名刺の案件を受けます。
名刺の断面に色を付ける仕上げのコバ塗り。
刷毛で色を塗る手作業です。
コバ塗りの作業が終わると名刺の束に帯を掛け、
茶色のクラフト紙でキャラメル梱包をし、最終クライアントに発送。
この一連の流れで、篠原紙工では名刺の仕事を受けてきました。
しかし、この名刺案件の際に、ずーっと気になっていたことがひとつ...。
最終的にお客さんの手元に届けるのは篠原紙工からです。
名刺はその人の名前が印刷されていて、とてもパーソナルな物なのに届いた時に茶色いクラフト包装で、セロテープや時にはガムテープでとめているだけって...。
*試作品の数々
案件の窓口である篠原は、なんとかもう少し気の利いた梱包や箱に入れて納品したいと思っていたのですが、名刺の仕事は時々しか受けないことを言い訳に、つい後回しになっていました。
既製品の箱を購入し、制作メンバーに仕上げの際はその箱に入れるように協力を求めたところ、40-50箱分の名刺箱を組み立て、名刺を入れ、最終的に仕上げるのに3時間近くかかることから、非効率だというブーイング。よく見かける名刺のプラスチックケースを購入してみましたが、見栄え的に納得がいかず、やっぱり紙の箱がいいなぁ...と悶々としていました。
社内で「何かいいアイデアない?」と篠原が声を出していたところ、
入社1年目の社員が自分でも名刺の梱包作業をしている際にもう少し効率化できないか?と、考えていたようで自分で「箱のデザインからやってみます。」と行動に移し、黙々と始めてくれました。
彼女が最初に発案した箱は両面テープで内部を接着する仕様でしたが、やはり作業効率的にもう少し改善したいところ。1枚紙でできている既存の名刺箱を参考にしながらアイデアを詰めていき、パッケージデザインをやっているデザイナーさんのアドバイスを参考にさせていただきながら、かなり本格的な展開図が仕上がりました。
両面テープを使わない仕様までにたどり着き、社内の仲間からのアドバイスも含め、さらに細かいところまで無駄を削ぎ落とし、ついに1枚紙でのシンプルな仕様の箱ができたのですが、
篠原からは「箱を開いた際に見える点線をなんとかしたいね。あと、箱の内側面を少し丸くするとか見た目も機能的にもう少し何かできないかなー。」と。
担当した社員は、正直「えっ、そこをついてくるのかぁ....」と。
予期せぬ反応で一度考え込んだようですが、
「もしかしたら私自身の感覚がズレてるかも?さすがに紙のことに関しては自分より何倍も経験値のある人の言うことなのだから、何かもっと良くなる方法はあるのだろう。無理とは思わずに、やるだけのことは全てやってみよう。」と前向きな気持ちでもう一度、どういう箱がベストかを考え直しました。
図面と睨めっこし、ある偶然から「点」ではなく「面」というところに着目し、最終的には箱の折り目である点線の代わりにレーザー加工で四角い模様を施す仕様に決まりました。
*四角いレーザーで抜かれた折り目
そして、篠原から指摘された箱の内側面を丸くする部分はそのまま何もせず。四角いまま...。
その理由をその社員、宮園葉月に聞いたところ、
「箱って、四角いものだから、ここだけ丸くするって何か違和感を感じたんですよね。やっぱり四角いほうが佇まいが良い。内側を丸くしたり、見た目のデザインだけにこだわることが目的ではなかったので、」と自分の考えを話していました。
*箱の表面には各個人の名刺が差し込めるようになっています
この名刺箱ができるまでの過程で、私が一番興味深かったのは、
誰かに言われたことを鵜呑みにして、指摘されたことだけを改善しようというのではなく、指摘の裏にはどんな意図があるのかを読みとっていたところです。
今回の名刺箱に関しての大切な目的は、手にとったお客さんへの喜びを作り出すことであって、指摘された部分のデザインをやり直すことが目的ではない。ということが彼女の中で分かっていたからこそ、自分の箱に対する意思はそのまま残して納得するものができたのだと思います。
*箱の裏側。見えますでしょうか?黒に脚が2つ、白には脚が4つ。箱をおいた時にグラグラしないように4つ脚を採用。(置いた時の安定した佇まいさが全く違います!)
社内での出来事ですが、私はこの名刺箱にまつわるストーリーを聞いていて、小さくても心が動かされるようなことで日々が溢れるような会社にしていきたいな。そんな想像を膨らましていました。T